ぬりえ1200字


僕はある日、恐ろしいものを見てしまった。この地球の成れの果てを。


その日も僕はいつものようにクーラーのガンガンきいた部屋でゲームに没頭していた。ゾンビを次々に倒していくゲームだ。ラストボスが現れ、必死に倒そうとしていたその時、目の前が真っ暗になり、意識が遠のいていった。


どのくらい時間がたったのだろう。目が覚めた時、僕は目を疑った。そこは僕の部屋ではなかったのだ。(夢か)と思って目をつむり、もう一度目を開けたが景色は変わらない。その後も、これを5回ほど繰り返したが、やはり変わらない。目の前にはゴツゴツとした岩の地面がただただ続いているだけだった。大きな赤いものの見える。その赤いもののせいだろうか、気温は異常に高い。
(なんだここは…)
僕はこれが夢ではない、又はリアルすぎる夢、どちらの可能性が高いか考えた。考えたがわからなかった。わかるわけもなかった。僕が呆然としていたそのとき、近くで甲高い声が聞こえた。


「この化粧品めちゃくちゃいいんだよー」
「えーこっちのパックだってマジいいって。肌ちょースベスベになるし」


僕はすばやく岩陰に身を潜め、声のするほうを見た。そこには、土のような肌をした生き物が2匹いた。言葉を喋るということは人間なのかもしれない。が、姿形はどう見ても僕がさっきまで倒していたゾンビそのものだった。2匹はまだ会話を続けている。


「これさ、昔はたくさんこの辺に生えてた『オレンジ』っていう物体の保湿クリームとパックなんだって」
「なんで昔生えてた物の化粧品が今あるの?」
「化学物質で再現できるんだって」
「へー」


(オレンジ…昔…?)僕は混乱した。オレンジなんて今どこにでも売ってあるし、珍しくもなんともないじゃないか。まさかここは未来の世界とか…?いやそんなわけはない。夢だ。しかし不安になった僕は、思い切って2匹に近づいて声をかけてみた。


「あの…」


2匹はこちらを向いた。近くで見るといっそうグロテスク。


「あの、ここってどこなんですか?」


2匹は僕の姿を見て驚いたようだ。しかしすぐに返事は返ってきた。


「どこって…港町だけど?」


それを聞いた僕は2匹以上に驚いた。僕の住んでいる町の名前だったからだ。


「あの、今って西暦何年なんですか?」
「2105年だよ」


自分の身に起こったことが僕はまだ理解しきれていなかった。必死に夢だと思い込もうとするも、リアルすぎる2匹を前にそんな努力もむなしく終わった。
2匹にいろいろな話を聞いた。
その話によると、地球は100年の間に環境破壊や温暖化などが進み、こんな姿になってしまったというのだ。その環境のせいで人間の姿もこのようになり、今、化粧品が爆発的に売れているという。
(保湿してもどうにもならないだろ…)と思ったが、口には出さなかった。
お土産に保湿クリームをもらい、2匹に別れを告げた。そしていろいろと思いをめぐらせていると、また、目の前が真っ暗になり意識が遠のいていった。


次に目を覚ましたとき、僕は自分の部屋にいた。ゾンビのラストボスは僕のほうを向いて死んでいた。(夢だったのか…)と思ったが、僕の手にはしっかりとあの、オレンジのクリームが握られていた。(………)僕はクーラーを切り、(どうか地球がああなりませんように)と祈った。